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フローズン カクテル

♪ 何も言えなくて、夏・・・

ボクは ぼんやりと 窓の下を流れる車を眺めていた

焦点は合わせず、 ただぼんやりと 光の軌跡を追っていた

都会(まち)は 光に溢れていた

高層ビルがひしめき合う都会の夜景は 
それだけで美しいイルミネーションの世界だった

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「ねぇ、聞いてるの?」

光の渦巻くボクの世界を破って カノジョが冷静にたしなめた

「ねぇ、最期くらいは しっかりとこっちを見て!」

感情に流されず 極めてクールな響きだ


ボクたちのテーブルだけ 時間が止まっていた

隣の席も、 あの席も、 そして あの従業員たちも ・・・
このテーブルで展開されている別れを 感じ取っているに違いない・・・


ボクは このようなシーンが嫌いだった

話しをごまかすのが上手いボクも
さすがに今日は逃げられなかった


ボクは カノジョの顔が見れなくて
ピントの合わない写真のように カノジョをとらえていた


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カノジョとは 今年で5回目のクリスマスを迎えようとしていた

ボクが未だ 羽振りが良くて、
飛ぶ鳥をも落とす勢いの頃 カノジョと知り合った


カノジョは ピアノ弾きだった

正確に言えば カノジョはOLであり、週一回のピアノ弾きだった

ボクは、その週一回のカノジョと知り合い、恋に落ちた

商社勤めで、入社3年目の女を口説くくらいなら、
当時のボクは余裕だった

家庭のあるボクは、カノジョのマンションにテキトーに通い、
なんとなく都合のいい女に育て上げ、
だらだらと付き合いを続けた・・・

そんな繰り返しの二回目の夏、
ボクは 事業に失敗した

家を失い、家族を失い、 全てを失ったボクに
ただひとつだけ残ったものが カノジョだった

カノジョは献身的にボクを支えた


そして今、 こんなボクに 風が吹き始めていた

1年前に興した会社が起動に乗り始め、
昔の友達も戻って来た

羽振りの良さはボクの眠っていた遊び癖を目覚めさせ、
知らずにボクはまた、カノジョを都合のいい女として扱っていた


三十路を超えたカノジョは、当然のように新しい自分を探し始め、
カノジョの両親の勧めもあって、縁談の話しが緩やかだか 順調に進んでいた

それでも、
カノジョが待っていたのは
こんなボクからの一言だったに違いない・・・

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新しいコーヒーが注がれた
カノジョが ボクのカップに 砂糖を1つ
お約束のように落としてくれた

ボクは ハッとして、その仕草を見ていた

細くしなやかな指先 ・・・
ニットのインナーを柔らかく膨らめている胸 ・・・
栗色がかった縦に巻かれた長い髪 ・・・

そして、優しいまなざし ・・・


いったいボクは、 今までカノジョの何を見てきていたのだろう・・・


都合のいい女 ・・・ ?

違う!
ボクは カノジョを愛していた!!

そう ボクは カノジョに甘えていた
ボクは 自分の不幸に酔いしれて
ただただ甘えていただけなんだ


「もぅ、決めたの! ・・・ あたし、結婚するから・・・」

カノジョの言葉が タイミング良くボクを弾いた  

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ラストオーダーの声をキッカケに ボクたちは店を出た
イルミネーションの街は 北風に変わっていた

「ねぇ・・・」

言いかけてカノジョは マフラーを直すフリをして言葉をのみ込んだ


「・・・ 行くゎ・・・」

そう言うとカノジョは駐車場のスロープに消えた


お互い最後の言葉は言わなかった
また明日から だらだらとした関係が新しく始まると思えていたからだ

でも
だらだらとした関係は 二度と始まらなかった


・・・あれから5年

カノジョの噂もきかない

ボクだけが まだこの世界に残って
そして
世界中の不幸と向かい合って暮らしている・・・


 BGM 「何も言えなくて、夏・・・」 (THE JAYWALK)

 

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